雛鳥

 秋葉原は変わった。進化し続ける街に順応しきれなくなるのは、自身の停滞を強く印象付ける。コンテンツにしてもそうだ。それぞれの人にとっての宝の山は各地に散在し、その中から財宝を取り上げるには地図をつぶさに観察し、場所を把握しなくてはならない。この歳になって、自分ではとんとそれができなくなった。スキルトイ屋も、ボードゲーム屋も、ガンプラ屋も、飯屋も、飲み屋も、みんな人から教えてもらってばかりだ。私が独自に開拓した店に入ったのなんて、この街ではもう前の時代までさかのぼらなくてはならない。

 別段それに困らなくなる程度には、秋葉原から遠ざかった。私はオタクだ。前進することをやめてしまった、古ぼけてくすんだオタク。昔取った杵柄と、交友関係が生じさせた隘路をうねうねと行きかう、四肢のない生き物。

 なんという恵まれた生き物だろう。餌が潤沢な時代だ。口を開けていれば通信デバイスが情報を届けてくれる。ネット通販が物欲を満たしてくれる。自分からの主体的なアクション必要なしに、巣で口を開けている雛鳥みたいに構えていれば、退屈を埋めるにはあまりある。

 秋葉原で、カップ・オブ・エクセレンスのコーヒー豆を提供する店がある。GWで秋田から上京した友人が行きたいと言った。カップ・オブ・エクセレンス。COE。受け売りの開陳を恥としないならば、それは世界的なコーヒー豆の規格であり、コーヒー産地の国ごとに行われた品評会で、その年で最も優れたコーヒー豆に送られる栄誉だという。規模やその品格については私は具体的な実感も知見も持たないが、相当な格式を持つらしい。

 興味を持たれた方には、詳細に紹介しているサイトがあるので参照されたい。 

https://www.thecoffeeshop.jp/theshortissue/what-is-coe/

 ともあれ。秋葉原にあるその店は、非常に手頃な価格でそのCOEのコーヒーを提供してくれる。インフルエンサーとしてはFランクの私が店の名前を明かしたところでその心配もないとは思うが、穴場のようなので混雑されても困るから、伏せておくことにする。調べればすぐに出てくるので、無駄な抵抗といったところだ。

 そして問題のこのコーヒー。実際、ウマい。長々と冗句を垂れ流そうとも思って書いては消したが、しっくりこなかった。ウマい。その一言で片づけるのがしっくりくる。

 

 友人にほいほいついていっただけで、存分に堪能させてもらった。店自体の雰囲気も大変によく、談笑しつつ落ち着かせてもらった。昼食を先に済ませてしまったのでトーストを食べることはできなかったが、友人の食べるのを見ている限り蓋然的に美味い。次に行ったときは絶対に注文しようと思う。

 口を開けているだけの雛も悪くないものだ。次に誰かを連れていくこともできる。新たな親鳥になるのは、いつも雛だ。私は雛であることに怖気づかない。

 

 話は変わるんですが、画像はコーヒー屋のあとオタクショップで収穫した荒木比奈グッズです。(こいつのおかげでその後に行ったカラオケでマジで15年ぶりくらいにアニメ店長を歌ってしまった)

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